008|私の恩人 〜香椎茶屋のものがたり〜

私が初めてFさんにお会いしたのは、平成23年11月。

 

 

株式会社日本介護福祉グループに内定が決まり、配属先の茶話本舗デイサービス香椎茶屋に挨拶に伺った日のことで、その日の事は今でも鮮明に覚えています。その日は管理者が不在で生活相談員が来るまでの間、通された部屋にFさんはいらっしゃいました。「こんにちは」緊張しながら挨拶をすると、

 

「はぁ?誰じゃお前は!」

 

 

返ってきたのはFさんの怒声。なんて怖いおばあさんなのだろう。

ただでさえ緊張していた私はびっくりしてしまい、もう一度挨拶をしようとしても上手に大きな声が出ませんでした。

 

「なんじゃお前は!もっと大きな声でしゃべれい!」

「聞いとるのか!しゃべらんだったら死んどるんと同じやないかい!」

 

強い口調で怒鳴りながら、Fさんは私に唾をペッと吐きました。

突然のことに私は益々縮こまってしまい、どうすればいいのかアタフタしていたその時、生活相談員の方が部屋に入ってきました。

すると一瞬でFさんの表情が変わりました。

 

「おぉー、よぉー来たのー。ずっとお前に会いたかったんじゃー。わしの妹よー」

 

さっきまでとは打って変わって、優しいやさしい口調でした。私はその時思いました。

「なんか・いいな・・・」と。

自分もこんな風になりたい、こんな風にご利用者に言ってもらえる位近い存在になりたい、そう思いました。

 

 

その後、4月に正式入社するまで私は香椎茶屋でアルバイトをすることになりました。

慣れないことだらけの毎日でしたが、中でも一番苦労をしたのがFさんとの関係作りでした。

何事も不器用な私はFさんをきちんと知ることから始めようと思いました。

アルバイト期間が終わり、社員になって、私は色んなFさんを知ることが出来ました。

 

椅子は消毒してからでないと座れず、手指を消毒しすぎて手荒れしてしまったことがある位潔癖症のFさん。

小さい子が大好きで、でも男性はちょっと苦手なFさん。

肉より魚が好きで、でも一番好きなのはチョコレートなFさん。

元准看護師で、若い時には満州の病院でも働いていたFさん。

気分にムラがあり、集団での行が好きでなく個別ケアが必要なFさん。

自然が大好きで、散歩や土いじりが好きなFさん。

ご家族を何より大切に思っているFさん。

 

最初の出会いから1年が経ち、Fさんは1年前には見せてくれなかった笑顔を見せてくださるようになりました。

専門学校を卒業し初めて会社という所で働き始めた1年目は、同じ失敗を繰り返してしまうことも多く、戸惑うことの連続で正直私にとってはつらい1年でした。

そんな中Fさんが見せてくれる笑顔や「ありがとうのー」「お前がおるから来るんじゃよー」といった言葉たちが私の励みになっていました。

 

一度だけですが、私は勤務中にも関わらず    Fさんの前で泣いてしまったことがあります。

その日もまた同じ失敗をしてしまい、上司にきつく叱られた日のことでした。

なんで同じ失敗ばかりしてしまうのだろう。

一生懸命頑張っているのに空回りばかりしていた当時の私は、情けなさとやるせなさと孤独感でいっぱいになってしまい、無意識に別室で過ごされていたFさんの様子を見に行きました。

部屋に入った私を見た途端に笑顔になるFさん。

その優しい笑顔に私の中で張りつめていた糸が切れたのでしょうか。

何かを考える間もなく、涙がぼろぼろとこぼれ落ちてきて自分でも驚きました。

Fさんは笑顔のまま私においでおいでをし、私の頭を撫でながら「どうしたぁー」と仰ると歌を歌い始めました。

 

「あなたのお顔を〜見たうれしさに〜呑んだら酔ったわ〜踊ったわ〜今夜はせめて〜介抱してね〜どうせ一緒に暮らせぬ身体〜」

 

Fさんがいつも歌ってくださる芸者ワルツ。その歌声に安心して、私は声を上げて泣いてしまいました。

「大丈夫!」   歌い終わるとFさんはそう言って、私を強く抱きしめてくれました。

 

5年も前のことですが、あの日あの出来事があったから今の私がいるのだと私は思います。

ずっとこの仕事を好きなまま続けてこられたのも、あの出来事のおかげです。

 

現在Fさんは入院をしてしまっており、なかなかお会いできなくなってしまいました。

でも、仕事でつらいことがあった時、失敗をしてしまった時、私はFさんとよくお散歩で通った道を歩きながら「芸者ワルツ」を歌います。

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最悪の出会いから始まったFさんと私。でも諦めないでFさんを知っていくことで、Fさんも私を受け入れてくださいました。

そしてFさんは私にとってかけがえのない方になりました。

 

Fさんだけでなく、今いるご利用者ともこれから出会うご利用者とも、心と心で繋がれることができるよう、一つひとつの出会いを大切にして、何があってもご利用者に寄り添う気持ちを忘れずにいたいと思います。

 

 

 

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