004|今を生きる 〜鎌倉材木座のものがたり〜

20年前に奥様を亡くし、その淋しさからアルコール依存症となりアルコール性認知症と診断されたKさんが茶話本舗デイサービス鎌倉材木座にいらっしゃったのは2年前のことでした。

娘様ご家族と同居なさっていたKさんはデイサービスのご利用が初めてで、ご利用当初は帰宅願望が強く、すぐに事業所の外に出ては怒鳴り散らす等、興奮状態がずっと続いていらっしゃいました。

Kさんは当時70歳とまだ若く、体力もあり、なによりご自身を50歳だと思われている為、馴染もない事業所にずっといることが耐えられなかったのかもしれません。

 

「Kさんが外に出たいのであれば、一緒にお散歩をしよう」

 

日毎にKさんの担当者を決め、Kさんの望むように一日中外を歩き続けるという日が続きました。

急遽、お泊りをご利用になった日には、深夜1時まで材木座を歩き回りました。勿論職員も大変でしたが、何よりも常に落ち着かないKさんが一番しんどそうでした。

 

 

「俺は自宅から追い出されたんだよ」

 

ある日、お散歩をしながらKさんが職員にそう言いました。

Kさんの苛々や落ち着かなさの原因は、その勘違いゆえの淋しさなのかもしれない。

そう思った職員は、Kさんが娘様やお孫さんとずっと一緒に暮らせるように、日中はデイサービスを利用してほしいという娘様の想いをお伝えしました。

 

後日、娘様がKさんにKさんの病気についてお話しをされるとのことで事業所にいらっしゃいました。

 

「俺は何の病気なんだ?」

 

事業所の庭先に腰かけたまま、Kさんが聞くと、

 

「お父さんはね、認知症っていう病気なんだよ」

娘様はKさんに伝えました。

 

娘様の言葉に、Kさんは黙って涙を流していました。

 

それからしばらくしたある日、お風呂に入っていたKさんが突然仰いました。

「俺、もう病気のことは考えないことにした」

 

ご自身の病気をきちんと受け止めた上で、前向きに過ごしていこうとするKさんの意思が感じられました。

 

そんなKさんの姿に、前向きに楽しく過ごして頂ける為のお手伝いを全力ですべく職員一同で、Kさんのやりたい事を探し始めた時でした。

「父が釣りをしたいみたいなのですが。主人も私も忙しくて、父の希望をなかなか叶えてあげられなくて」

娘様からご相談を受けた私たちは、「これは叶えるしかない」と決めました。

 

1回目の釣りは、朝7時にご自宅を出発し、逗子漁港へ行くも小さなフグが1匹。

2回目の釣りは、小田原漁港へ行くも、小さなカサゴが1匹。

普段よりは晴れやかな笑顔でしたが、学生時代から釣り部に所属し、釣り雑誌に連載まで持っていたというさんですので、やっぱり少し残念そうなご様子。

 

そこで3回目の釣りは、娘様とケアマネジャーに相談し、許可を頂き、ボートを出して沖に出ることに!

いざ、手漕ぎボートで材木座海岸から沖に出て、イカリをおろすと、 Kさんは、カワハギやボラをどんどん釣り上げていきます。

その日はやや風が強く、ボートがすぐに流されてしまうので、手に豆を作りながらボートを少しずつ移動させていると、

 

「このあたり!面白いぞ!」

Kさんが歓声をあげました。その日一日、Kさんはずっと少年の様にはしゃいで、楽しそうでした。

 

翌日のお風呂の際にも、同行出来なかった職員に釣りのご様子を楽しそうにお話してくださいました。

 

認知症という事実は変わらなくても、病気のことなど忘れ、「今」を思い切り楽しむことだってできる。

私たちは、これからもKさんや他ご利用者様と共に悩み、共に苦しみ、共に分かち合い、共に励まし合い、共に闘っていきます。

 

 

 

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